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小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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 あれはなに?<BR>
 ほんの少し開けた扉の前で始まったウィロウさまとアークレーヌさまを含むやり取りに、わたしはドアから出ることができなくなった。<BR>
 何食わぬ顔で出ればよかったのかもしれない。<BR>
 けれど、できなかったのだ。<BR>
 だって。<BR>
 ウィロウさまのガウンを羽織られた後ろ姿はともかくとして、アークレーヌさまがなぜこの東の領域の廊下にガウン姿でいるのか。銀の縁取りのある濃紺のガウンの帯が不器用な固結びになっているのが微笑ましいと思えばいいのか、それとも乱れたさまのしどけなさになにを思えばいいのか、混乱してしまったのだ。<BR>
 いくら男の方とはいえ、ガウンの下は素肌だろうことが容易に分かった。<BR>
 なぜならガウンの合わせは帯のところまではだけてしまっていて、困ったことにアークレーヌさまのぬめるような青白い首筋から胸元の一部が露わになっているためである。しかも、ガウンの裾からやはり青白く細い繊細そうな踝までも見ることができる。<BR>
 疑問だった。<BR>
 朝が早いとはいえ、なぜ、あんな格好で。<BR>
 さすがに直視するのは憚られて見ないようにしたけれど、青白い肌がうっすらと熱を帯びたように陰影のある桃色を宿したさまは、男女の夜の後のような隠微な艶めきを示唆してくるかのような錯覚を抱かせるものだった。<BR>
 なにを馬鹿なことを。<BR>
 自分のはしたない連想を打ち消す。<BR>
 考え付くことができるのは、何か相談事があっておふたりで遅くまで話し込んでしまってアークレーヌさまがお部屋に戻るタイミングを逃したことくらいだろうか。<BR>
 そう思った。<BR>
 だって、おふたりは父と息子なのだから。<BR>
 穏当な行動はそうだろう。<BR>
 他になにがある?<BR>
 だから、こんなところで息を殺して盗み見ていないで、普通に出て行って朝の挨拶をすればいいのだ。<BR>
 おはようございます−−−と。<BR>
 ことはそれで普通に戻る。<BR>
 はずなのに。<BR>
 目の前で繰り広げられるやり取りに、昨日覚えた不安が鎌首をもたげてくるのだった。<BR>
「アークレーヌっ」<BR>
 ウィロウさまがアークレーヌさまの腕を掴んで抱え込む。<BR>
 抱きしめて、<BR>
「無理をする。それほど私の部屋に居たくないのか」<BR>
 わたしの聞いたことがない真剣な口調で、まるで掻き口説くかのように言うウィロウさまに、わたしの心臓が握りつぶされるかの錯覚があった。<BR>
「いや」<BR>
 十六歳の少年のものとは思えないほど、力のない拒絶に、背筋がそそけ立つ心地だった。<BR>
 この声は。<BR>
「もう、いやだ」<BR>
 この口調は。<BR>
「いやなんだ」<BR>
 まるで………。<BR>
「旦那さま、このままでは御曹司の体調がまた悪くなられましょう。私がお部屋まで」<BR>
 わたしが口を掌で抑えた時、ハロルドの声が聞こえてきた。<BR>
 それにささくれ立った神経が、癒される心地がした。<BR>
 ああ。やっぱり。<BR>
 アークレーヌさまは何かウィロウさまに相談事をしていて、そのまま体調を崩されたのだ−−−と。<BR>
「ひとり、ひとりでもどれる」<BR>
 そんなアークレーヌさまの張りのない声に、<BR>
「青いな」<BR>
 ウィロウさまが顎を持ち上げられたのだろう。<BR>
「ハロルドについていってもらえ。それもいやだというなら、私が抱いて連れて行ってやろう」<BR>
 熱のこもった、まるで睦言を紡いでいるかのようなウィロウさまのことばに、わたしの顔は赤く染まり、足から力が抜けたのだ。<BR>
 ああ。<BR>
 ウィロウさまは………。<BR>
 その時、わたしの心の中には、ひとつの確信が芽生えていた。<BR>
<BR>
 唾棄するべき、恐ろしい確信だった。<BR>
<BR>
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