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小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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 ちょーっとやっぱり気に入らないというかしっくり来ないんですけどね。いらないところというか、書けないだろうところは端折りまくってますしね。書こうとして書けない納得できないところは切ってもいいだろうかって感じですね。趣味だからね、オッケーさvv







 真珠と称えられる王都の影に、刑場はある。

 清浄を際立たせるためには、汚濁が必要とばかりに、瀑布の裏側に、それは存在した。裏見と呼び習わされ、いつしか転じて恨みと呼ばれるようになったその場所こそが、罪人を処刑する場だった。

 羊歯の垂れ下がる天井から滲み滴り落ちる水滴が、水たまりをあちらこちらに作っている。

 ぐるりと柵に囲まれた一段高い位置に硬い岩盤の平地があり、処刑台が据えられている。既に貴賎の別ない物見高いものたちが柵の外側に集まっていた。

 轟々ととどろきわたる水音を術士たちが消しているため、ざわざわとした喧騒と期待や蔑みに満ちた視線が、湿度と冷感と共に、アヴィシャの全身に絡みついてくる。

 王城の地下牢から続く長く険しい階段を降りた先が、ここだった。

 アヴィシャは既視感に囚われる。

 これと似た場所を、幾度か見た記憶があった。

 ゴツゴツとした岩肌に囲まれた空間。

 ああ。

 無表情の裏側で、そうか−−−と、アヴィシャは思い出す。

 混沌の神の御座(みくら)に、ここはとてもよく似ているのだ。
 
 己の愛するものたちが囚われていた場所に−−−。

 いつはてるとも知れぬ長く神子とは名ばかりの贄の日々を愛するものたちが過ごしていたのとよく似た場所で、己は、ほんの一刻にも満たぬ時を過ごせばいいのだ。

 それを苦痛と思うは愚か。

 アヴィシャはゆっくりと目蓋を閉じ、開いた。







 ファリスに抱き抱えられ、トオルはそれを見た。

 震える手が、柵を握りしめる。

 左右からトオルを抱えるファリスとアディルの全身の強張りが痛いくらいだったが、それさえも気にはならなかった。

 声が出れば、叫んでいただろう。

 遠目ではあったが、粗末な生成りの着衣を身に纏った男がアヴィシャだと、わからないわけがない。

 どうして。

 なぜ。

 いつもは綺麗に撫でつけられているアヴィシャの前髪がその端麗な額に乱れかかっている。まるで望遠鏡で見る月のように、とても近くにアヴィシャがいるかのように、そんな些細なことまで見てとることができた。

 誰かが、なにかをがなるように捲し立てている。

 周囲が、やけに大きな声でなにかを喚いている。

 そんな中、一際耳を聾する金属音が轟き渡り、周囲のどよめきがやまる。

 とてつもなく嫌な予感が背筋を這い登り、トオルの心臓を心を乱れさせる。

 その手に凶悪な鋭さを持つ斧を持った男がひとり現れる。

 罅割れかすれた呼気にも似た小さな悲鳴が、喉を痛めつける。

 小刻みな震え、脂汗が、全身をしとどに濡らす。

 アヴィシャを乱暴に木の台に昇らせ、荒々しく寝かせつけ、押さえつける。

 アヴィ!

 声にはならない悲鳴が、やはり空気を掻き毟る。

 どうして。

 なぜ。

 どうして。

 どうして。

 どうして。

 見たくない。

 けれど。

 見たくない。

 でも………。

 あそこにいるアヴィシャに、駆け寄りたい。

 この頼りない身体で覆い被されば、少しでも彼を助けることができるだろうか。

 この柵が、邪魔になる。

 アディルとファリスがいなければ立つことさえままならないこの身が、疎ましかった。

 振りかぶられる斧の残酷な軌跡を、トオルは見たと思った。







 誰か!

 誰でもいい!

 惑乱する心の底から、トオルは願った。

 なんであろうともかまわない。

 神であろうとも、悪魔であろうとも。

 今更この身が何度目かの死を迎えても、アヴィシャが殺されるよりは遥かにマシだった。

 だから。

 自分をアヴィシャのところに!

 この身が盾になるのなら、喜んで盾になる。

 応−−−と。

 その後なら、かまわない。−−−なにがかまわないのか、わからないままに心から願っていた。

 諾−−−と。

 歓喜の声が脳裏にこだまするのを聞いたような気がした。







 しかし。







「アヴィ………」

 かすれた声が軋むように、倒れ伏す男を呼ぶ。

 突然現れたトオルに、即座に対応できるものはこの場にはいなかった。

 茫然と、ただ、それを、膝に抱え上げる。



 それを。



「アヴィシャ………」

 呼ぶ声に誘われるかのようにゆっくりと。

 酷くゆっくりと。

 膝の上のそれが、目蓋をもたげて、トオルを見た。



 握り潰されるかのような胸の痛みに、ただ、それを、アヴィシャであったものを、抱きかかえる。

 まだ微暖(ほのあたた)かな、熱いほどの血をとめどなく流す、それを。



 けれども、涙は出なかった。



 栗色の眼差しが、とろりと白い膜を帯びたように光をなくしてゆく。

 いつも何かを堪えるように自分を見て、それでいて優しくやわらかに微笑んでくれたアヴィシャという存在が、ただの物体へと変貌を遂げてゆく。その絶望に、トオルは、周囲を見回した。

 誰かは知らない。

 血に染まった斧を手にした男も、アヴィシャを押さえていた男たちも、偉そうにふんぞり帰っている二人の男も、トオルは知らない。

 見知った顔は、アヴィシャの娘だと名乗った少女だけ。

 視線が少女の顔で、ふと、止まる。

 少女の、色調だけがアヴィシャに似た瞳がトオルを捉えて、息を吹き返したかのように光を弾いた。途端、少女は動いた。トオルをそうと見た上で近寄り、見下ろした。

「大公は死んだの。アグリアメタクシの偽物を作らせて売り捌いていたから。そのお金で反逆を企てていたから。だから処刑されたの。わかった? もうあんたをたすけてくれることも、守ってくれることも、ないの。そんな危篤なひとなんて、どこにもいないの。あんたには、今のその格好がお似合い。どうせ、それで哀れみを誘って、大公をたぶらかしたんでしょ。大公はそんなあんたをかわいそうに思って、酔狂で引き取ってくれたのよ!」

 蔑む眼差し。

 嘲る口調。

 馴染んでいたものだった。

 けれど、

「それでも、たとえ同情だろうと酔狂だろうと、かまわなかったんだ」

 そう。

 かすれる声で、トオルは、言い募る。

 アヴィシャと彼に仕えたふたりだけが、この世界でトオルにとってかけがえのない存在だったのだ。


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