小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
なんか納得いかないのですが。
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***** <BR>
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ふと気がつくと、思いもよらない場所にいる。<BR>
そんなことが日に何度も繰り返された。<BR>
そういうときにはどこからともなく黒猫がすり寄ってきていた。<BR>
それを抱き上げ、喉を撫でてやる。<BR>
猫の喉鳴りの音色が、僕の不安を癒してくれる。<BR>
そんな気がした。<BR>
あの夜、義母上に譲ったピアノが傷つけられたあの日の夜、僕はまた父に抱かれた。<BR>
レースのリボンもなく、ドルイドベルの独特の音色もなく、ハロルドの先達さえもなく。そんな突然の来訪に、僕はあっけにとられていた。<BR>
僕を呪縛するものもなく、僕は最初から”僕のまま”で父に抱かれた。<BR>
それは、初めてのことだった。<BR>
その時僕の心に芽生えたものが、何であったのか。<BR>
その事実にこそ、僕は打ちひしがれたのだ。<BR>
<BR>
心に芽生え渦をなしたそれは、紛れもなく、父に抱かれることによる安堵と歓喜だった………。<BR>
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寝台に横たわった父の脇にすっぽりと収まる安堵にうろたえながら全身を強張らせるというわけのわからない状態に陥っていた僕の耳に、<BR>
「お前のピアノが傷つけられたことを知っているか」<BR>
ふと思い出したといった風情で父が囁いてきた。<BR>
「………もう、僕のピアノではありません」<BR>
あれは、僕が手を下したわけではない。<BR>
「あれは、義母上に譲ったのですから」<BR>
もう、僕のものではないのだ。あの滑らかな白と黒の鍵盤も、落ち着いた色合いを見せはじめていた足元のペダルも、美しいカーブを描くあのフォルムさえ、もう、僕のものではない。<BR>
父の鼓動を子守唄のように白川夜船(being fast asleep)へと誘われようとしていた僕は、<BR>
「それでも、お前がピアノを傷つけるはずがない」<BR>
その一言に、己の耳を疑った。<BR>
鼓動がせわしなくなってゆく。<BR>
睡魔などどこかへと消え失せた。<BR>
「ちちうえ?」<BR>
無様にもかすれた声だった。<BR>
「ああ。もちろん、お前を疑っているわけではない」<BR>
起き上がろうとする僕を片手で押さえつけ、父は僕を凝視した。<BR>
「おまえは、やさしいからな」<BR>
それが、別の意味に聞こえたのは気のせいだろうか。<BR>
「あんな乱暴なことをするはずがない」<BR>
父の手が、僕の乱れたままの髪を撫で付ける。<BR>
そうだろうか?<BR>
父よりも身近にいるといっても過言ではないトーマスも、心のどこかで僕を疑っていた。<BR>
疑惑は拭い去れてはいないのだ。<BR>
疑惑は疑惑に過ぎないが、そのあやふやさに僕はすがりついている状態だ。<BR>
あの油照りの海のような瞳の奥に、トーマスでさえもかすかな不信を押し隠していたように感じた。<BR>
何と言っても、僕が僕自身の行動に自信を持てないでいるのだ。<BR>
どうしようもない。<BR>
泣くつもりはなかった。<BR>
泣いているつもりなど、もとより。<BR>
それでも、<BR>
「泣くな」<BR>
と。<BR>
父のことばに、それを知った。<BR>
「お前とふたりのときに、野暮(booloishness)な話をした。忘れろ」<BR>
目元を拭われ、そのまま目を覆われるように手を置かれた。<BR>
父の、大人の男の大きな掌が、僕の視界をゆったりと遮る。<BR>
父のもたらす闇は、暖かく、愚かだと自嘲しながらも、安堵せずにいられなかった。<BR>
「何があろうとも、悪いのは私だ。お前は気に病む必要などない」<BR>
つぶやきが僕の子守唄になった。<BR>
<BR>
<BR>
けれど。<BR>
この状態は、どうしようもなく僕の心を痛めつける。<BR>
黒猫の金の目がろうそくの明かりを反射する。<BR>
苦しい。<BR>
どうしようもない。<BR>
憎くてたまらなくて。<BR>
消えて欲しくてならなくて。<BR>
いっそ、死んでしまえばいいのにとすら思う相手が、足元に倒れている。<BR>
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