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小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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たどり着けない本題。
 こんなに二人を絡ますのが難しいとは………。
 67kbを費やして、まだここorz

 怠い。<BR>
 何もする気が起きなかった。<BR>
 自室の居間から窓の外を眺め見る。<BR>
 小糠雨に濡れる庭には、咲き初めようとする花々でうっすらと色づいていた。<BR>
<BR>
 昨日のことだ。<BR>
 ふと思い出す。<BR>
 この城を守るようなガーゴイルの雨樋をスケッチしていた。<BR>
 ファサードのガーゴイルたちは特に大きめに造られているため、細部までスケッチするには最適だった。だから、思い立ったその足で、建物正面まで来ていた。いつもは北の領域の庭から外に出ることが多い僕にしてみれば、それは珍しいことだった。<BR>
 この城が建造された中世の頃のデザインのどこか滑稽な表情の魔物たちが天を見上げて大きな口を開けている。羽のあるものもいれば、尻尾のあるものも。ツノがあるものも。どれもないものもどれもあるものもいる。<BR>
 初めて見るものは驚くかもしれないが、見慣れて仕舞えばどうということもない。もちろんのこと、言うまでもなく、ただの、雨樋にすぎないのだ。<BR>
 天を見上げて口を大きく開いたさまは、まるで己の状況を嘆くかのようで。<BR>
 天から落ちて魔物へと変わった自分を呪うかのようで。<BR>
 まるで自分のようだと、思ったのだ。<BR>
 気づいて、苦く嘲笑う。<BR>
 どこの悲劇のヒロインだ−−−と。<BR>
 滑稽な。<BR>
 ほんとうに滑稽だった。<BR>
 逃げようとすれば、逃げられるのに。<BR>
 逃げないのは、己に自信がないからだ。<BR>
 この、安楽な生活を手放したくないためだ。<BR>
 ぐるぐると自嘲が頭の中を埋めてゆく。<BR>
 己の情けなさに捉われて、鉛筆を動かす手が止まった。<BR>
 ガーゴイルたちのように、空を見上げる。<BR>
 晴れ渡った空が、どこまでもつづく。<BR>
 下界で足掻くのをやめた愚鈍な人間のことなど我知らぬとばかりに、天上の輝かしさを映してどこまでも美しい青が広がる。<BR>
 あまりのまばゆさに地上へと視線を戻し振り返れば、遠くどこまでもつづく丘陵地帯の紫が見えた。<BR>
 荒野にはびこるヒースの花群れ。<BR>
 どこかうっすらと黒みを帯びたように見える、紫の荒野。<BR>
 惹かれるようにして、歩き出す。<BR>
 スケッチブックと鉛筆が地面に転がる。<BR>
「御曹司。どちらへ行かれます」<BR>
 いつものように控えていたヴァレットのうろたえたような声が聞こえたような気がした。けれど、それに返事を返すこともせず、僕は歩を進めた。<BR>
 だけど、どれほども進めなかった。<BR>
「御曹司!」<BR>
 ヴァレットの慌てた声とほぼ同時に、甲高く小さな悲鳴が襲いかかる。<BR>
 背後からのいきなりの衝撃に、バランスを崩した僕はたたらを踏んだ。<BR>
「ご、ごめんなさいっ」<BR>
「いや………」<BR>
 差し出した右手を、<BR>
「いやっ!」<BR>
 勢いよく叩かれた。<BR>
「御曹司っ!」<BR>
「ご、めんなさい」<BR>
 天上の空のような青が僕を見上げていた。<BR>
「かまうな」<BR>
 その瞳の中に見えるおびえの色に、戸惑った。<BR>
 なぜ?<BR>
「義母上?」<BR>
「アークレーヌさまっ」<BR>
 悲鳴のような声だった。<BR>
「近づかないでっ」<BR>
 どうしてこんなに怯えられなければならない?<BR>
 僕が、いったい、何をしたというのだ。<BR>
 これで、彼女と顔を合わせたのは、何回目だろう? ほとんど言葉すら交わしたことがないというのに。<BR>
「ケイティさまっ」<BR>
 遅れて駆け寄ってきた見知らぬ女性が、彼女の肩を庇うように抱きしめた。<BR>
「大丈夫ですか? おからだは? お腹はっ」<BR>
「なんてことをするんですかっ! ケイティさまのお腹には赤ん坊がいらっしゃるんですよっ」<BR>
 睨みつけてくる灰色の瞳が僕を糾弾してくる。<BR>
 誰だろう−−−と思うよりも先に見知らぬ彼女のそのことばに、心臓を思い切り握りつぶされるような衝撃が襲い掛かった。<BR>
 ぐらり−−−と、視界が揺らいだ。<BR>
 鼓動の動きが、血管の収縮が、速度を増してゆく。<BR>
 まだ何かを叫んでいる見知らぬ彼女のことばを把握することは、僕にはできなかった。<BR>
 僕にできることは、背後から僕を支えてくれたヴァレットに体重を預けることだけだったのだ。<BR>
<BR>
<BR>
<BR>
 *****<BR>
<BR>
<BR>
<BR>
 ウィロウさまはあの日、来てくださらなかった。<BR>
 知らせはハロルドさんから受けたはずなのに。<BR>
 どうしてなのだろう。<BR>
 この頃のウィロウさまは、とてもそっけない。<BR>
 朝食時も、晩餐の時も、アフタヌーンティーの時さえも、お顔を見ることができるのは稀になっていた。<BR>
 お忙しいのだろうか?<BR>
 領地経営は、きっとわたしなどが想像できないくらいに大変なお仕事なのだろう。わたしは詳しくは知らないけれど、ウィロウさまはそれ以外にも他にお仕事をなさっているらしい。<BR>
 南の領域から東の領域の二階に移された部屋で赤ん坊の靴下を編みながら、わたしは溜息を吐いていた。<BR>
「どうなさいました?」<BR>
「いいえ。なんでもないのよ」<BR>
 普通に微笑むことができているだろうか。口角がひきつるような気がしてならない。<BR>
「前の奥さまがお亡くなりになられたのが三年前の今頃なのだそうですよ」<BR>
 何気ないように言うルイゼの事情通さに、目を見開く。<BR>
「前の奥さま………」<BR>
 すっかり忘れていた。<BR>
 わたしは後妻なのだ。<BR>
 そう。<BR>
 アークレーヌさまのお母さま、ウィロウさまの先の奥方さま。<BR>
 離婚などという外分の悪いことを貴族がするはずもない。せいぜいが、別居といったところだろう。だから、後妻を迎える貴族の大多数は、相手を亡くしている場合が多い。<BR>
 当然、ウィロウさまの前妻も、亡くなられている。<BR>
 これまで考えたこともなかった自分が、どれだけウィロウさまとの結婚に浮かれていたのかを物語っていた。<BR>
 どうして亡くなられたのか。<BR>
 さすがにルイゼもそこまでは知らなかった。<BR>
 どんな方だったのだろう。<BR>
 とても今更の疑問だった。<BR>
 もしかして、ウィロウさまは今も、前の奥さまを愛してらっしゃるのだろうか。<BR>
 そうかもしれない。<BR>
 だから、あんな事件が起きたというのに、ハロルドさんに任せっきりにされるのだ。<BR>
 たった一言でいい。<BR>
 やさしいことばをもらうことができれば、この不安は、消すことができる。<BR>
 そう。<BR>
 きっと。<BR>
 わたしは編みかけの靴下をテーブルの上にそっと置いた。<BR>
「ハロルドさん」<BR>
 家令の仕事部屋の扉をノックした。<BR>
「奥さま、何事でしょうか」<BR>
と、ウィロウさまと歳も変わらないだろうハロルドさんが机から顔を上げてわたしを見ていた。<BR>
「ハロルドとお呼びください」<BR>
 とってつけたように言うハロルドに、<BR>
「前の奥さまの肖像画とかありますか? あるのなら見たいのですけど」<BR>
 なるたけ冷静に言ったわたしのことばに、ほんの少しハロルドのメガネの奥の目が大きくなったような錯覚があった。<BR>
「ございますよ。こちらへどうぞ」<BR>
 やりかけの書類をまとめ終わったハロルドが、ソファに座っていたわたしを先導してくれた。<BR>
<BR>
<BR>
 採光に気を使ったその部屋は西の領域のグランドフロアにある絵画専用の部屋で、壁にはおびただしい数の肖像画や家族の肖像画がかけられていた。<BR>
 奥の端にあるのが、初代アルカーデン公爵のものだという。<BR>
 ずらりと下がって、目の前にあるのが、ウィロウさまの幼い頃と若かりし頃の肖像画とご両親と共に描かれた肖像だった。<BR>
 とても凛々しくお美しい。<BR>
 この方が、わたしの旦那さまなのだ。<BR>
 そうして、その隣にある家族の肖像画が、ウィロウさまのご家族の肖像。<BR>
 椅子の背後に立つ十代後半の青年貴族と、椅子に座る初々しい美貌のレディ。<BR>
「この方が………」<BR>
 わたしは惚けたようにその女性を見ていた。<BR>
 それは、とても美しい女性の肖像だった。<BR>
 透けるような白い顔を彩っているのはマホガニー色の艶めく髪。額に嵌ったティアラには真珠の飾りが品よく配置されている。薄い貝殻のような耳。小さめの通った鼻の下に薄幸そうな小さなくちびる。綺麗に弧を描いた細い眉。アーモンドのような双眸。深紅のレースのリボンが巻きつく細い首。くっきりと浮き上がる鎖骨から下を美しく包み込むのは、繊細なレースをふんだんに使ったドレスである。女性的なラインを描く方から腕。手袋に包まれた腕の先では労働とは無縁の細い指が扇を持っている。<BR>
「レイヌ・アルカーディさまでございます」<BR>
「とてもお美しいお方でしたのね」<BR>
 ころがり出たのは、力のない言葉だった。<BR>
 なよやかな、たおやかな、わたしとは正反対の貴族的な容姿。<BR>
 見せつけられた。<BR>
 決して、かなわない。<BR>
 そんな気がした。<BR>
 どんなに気をつけても日に焼けるのを避けるのが困難な故郷の気候。<BR>
 ここに来て少しは白くなったろうけれど、それでもまだそばかすの散る顔はわたしにとってのコンプレックスだった。<BR>
 指を見る。<BR>
 女性にしては、関節の節が目立つ少し不恰好な指。移動には絶対に馬が必要な環境で、御者の真似事は必須だった。乗馬は趣味などではなく、生活と切り離すことができないもので。それに、金鉱掘りや砂金取り、鉱山仕事に従事する荒くれの多い土地柄の上に、ヘビなどの危険な生き物のいる土地柄である。女性だとて護身用のピストルは必須だった。<BR>
 上流階級と呼ばれる生活ではあったけれど、家事も一通りはできる。山火事の炊き出しに参加したこともある。<BR>
 上流階級と呼ばれる層の質があちらとでは違うのだ。<BR>
 優雅にお茶を飲み、することといえばお喋りと刺繍など。<BR>
 もちろん、社交シーズンの忙しさは昨年少しだけ体験してはみたけれど。<BR>
 子供がお腹にできたことで、しばらくは首都に出向くことはできなくなった。おそらく、今年の参加は無理だろう。少し残念だけれど、社交界の本格的な洗礼を受けなければならないことを鑑みれば、猶予ができたことは幸運なことのように思えた。<BR>
 そう。<BR>
 必ず、レイヌさまと比べられる。<BR>
 それは逆らいようのない事実だった。<BR>
「奥さま?」<BR>
 込み上げてくる悲しみがハロルドの前で形になる前に、わたしは急いで踵を返したのだ。<BR>
<BR>
<BR>
<BR>
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