小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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足元を凝視したまま悲鳴が喉の奥に凍りつく。<BR>
まだ午後になったばかりだというのに。<BR>
ここは、自分の部屋だというのに。<BR>
一体、自分に何が起きているというのか。<BR>
手紙が足元に落ちてゆく。<BR>
頭の中にはただ”どうして”という疑問ばかりが次から次へと途切れることなく湧きあがるばかりだった。<BR>
薄い封筒が、床に広がる赤い液体に染まってゆく。<BR>
懐かしい故郷の友人からの手紙が見るも無残に赤く染まり果てる。<BR>
侍女が控える、控えの間と呼ばれる部屋を抜けて自分の部屋のドアを開けた瞬間、水音がかすかにした。<BR>
異臭がわずかな時差の後に鼻腔に充満した。<BR>
目の前に広がるのは、赤だった。<BR>
血のような、赤。<BR>
ほんとうの血なのかもしれない。<BR>
この鉄錆たような鉄臭いような生臭い匂いには記憶があった。<BR>
どれぐらいそうしていたのか。<BR>
嘔吐きあげそうになるような粘つく水音に顔を上げた。<BR>
そうして。<BR>
わたしは、そこに、見たのだ。<BR>
赤いドレスを身にまとい、恨めしそうにわたしを見ている”それ”を。<BR>
”それ”が、生きていないことは、一目でわかった。<BR>
恨みがましそうな苦しそうな上目遣いの三白眼。<BR>
だらりと長く伸びた青紫の舌のせいか下がった口角。<BR>
倍ほどに伸びて細長い首には、苦しさのあまり引っかいたのだろう傷跡がおびただしくも生々しい。<BR>
そうして、その傷跡を作ったのだろう、いびつにひび割れた、指の爪には、赤い血が。<BR>
悲鳴は出なかった。<BR>
ただ、生理的な嫌悪からか、どうしようもない恐怖からか、涙があふれた。<BR>
逃げなければ。<BR>
”どうして”という疑問を押しのけてわずかばかり建設的な思考が蘇ったのは、その超自然的なものの目がぐるりと音立てるかのように動いてわたしを見たからだ。<BR>
それと同時に、その手がわたしに向かって伸ばされたからだ。<BR>
下がった口角が、不自然に持ち上がっていったからだった。<BR>
憎々しげに、心底にくい相手をおどかせたと言わんばかりの醜怪な笑い顔に、わたしの足がようやく動いた。<BR>
それを皮切りに、手が、からだが、全身が。<BR>
背後に数歩どうにか動けた。ドアの後ろにいる自分に気づいて、思いっきりドアを閉めた。<BR>
それだけで、全身が汗まみれになっていた。<BR>
ドアに背中を預けたまま、わたしはその場に腰を落とす。<BR>
そんなわたしに、いつからいたのか、侍女が声をかけてきた。<BR>
「どうなさいました」<BR>
あまりに平凡な、それまでの恐ろしい情景と懸け離れたことばに、差し出されてきた侍女の手にすがるようにして立ち上がりながらヒステリックな笑い声をあげていた。<BR>
ほとばしる笑い声を止めることができなかったのだ。<BR>
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