小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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まだかすかに幼さの残る肢体を背中から抱きしめる。<BR>
既に滾る情熱を受け入れている箇所が、その刺激にきつく引き攣れるように震えた。<BR>
それに、思わず出そうになった声を殺す。<BR>
逃げようと伸ばされる腕を、引き止めるように鷲掴んだ。<BR>
逃がすわけが無い。<BR>
許せるはずも無い。<BR>
「オイジュス。我が王子よ」<BR>
熱くささやけども、オイジュスは王を見ようとはしない。<BR>
ただ頑に、ひたすらに、王を拒絶する。<BR>
悲鳴を上げて泣き叫ぶオイジュスは、決して王を見ることはない。<BR>
それは、己たちが犯す罪の深さゆえか、それとも、自らを蹂躙する王をそこまで嫌い抜いているからなのか。<BR>
知る術は、もはや無いのだろう。<BR>
なぜなら、王がその手で、自らオイジュスを殺し、心を打ち砕いたからだ。<BR>
オイジュス。<BR>
彼の王子。<BR>
愛しい、その息子を。<BR>
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吹きすさぶ風雪が塔の窓を打ち据える。<BR>
燃え盛る暖炉の炎が床に敷き詰めた白い毛皮を暖色に染め上げる。<BR>
心砕けた息子を腕の中に捉え淫らな戯れを仕掛けながら、王は炉の中で踊る炎を眺めた。<BR>
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ユウフェミア。<BR>
王が愛した唯一の后が、かすかな微笑みをたたえて、彼を見た。<BR>
細い手を取り、心の底からの感謝を込めて、その白く儚い手の甲へとくちづける。<BR>
ユウフェミアの横たわる褥の横には小さなゆりかごがある。そこに眠る生まれたばかりのいのちに、王の心は沸き立っていた。<BR>
心の底から愛する后が生んだ、初めての子。<BR>
おそらくは、妃の最後の子でもあるだろう王子を見て、王は親指に嵌っていた指輪を抜いた。それを后に贈るつもりで運ばせていた繊細な細工の首飾りに通して王子の首にかける。<BR>
シャラリとかすかな音をたてた金の鎖に通された赤い石の嵌った指輪が、きらりと光を弾いた。<BR>
「我が子オイジュスよ。そなたに王太子の位を授けよう」<BR>
我のすべてを、いずれそなたに譲り渡すべく。<BR>
それは、本心からの誓であったのだ。<BR>
まさか、その数日後、王太子の披露目の式典で、王子が攫われるなどという奇禍が起こるなど、誰が想像し得ただろう。<BR>
元来丈夫な質では無かった后が命を危険に曝してまで生んだ王子であった。<BR>
ユウフェミアの嘆きは、王の心を締め付けた。<BR>
わずか数日とはいえ、この腕に抱いた王太子のあたたかさも重みも、すっかり彼を虜にしていた。<BR>
このいとけない存在がユウフェミアが命をかけて生んだ自らのこどもなのだと思えば、その奇跡にも等しいものに、王の心が感動に震えた。<BR>
だというのに。<BR>
国中をくまなく探させた。<BR>
犯人の探索もぬかりなく行わせた。<BR>
それでも。<BR>
彼の王子の行方は、杳として知れなかったのだ。<BR>
王子はどこに。<BR>
生きているのか死んでいるのか。<BR>
それすらも判らぬままに、徒にただ日々は流れ去ってゆく。<BR>
ユウフェミアにはもう子を生むことは適わなかった。<BR>
無情な侍医の宣告に、周囲は、王に妃を持つようにと進言した。<BR>
王には逆らう術も在りはしなかった。<BR>
王の第一の義務として、国のために跡取りを持たなければならないのだ。<BR>
それでも。<BR>
王が心から愛するのは、ただユウフェミアと行方の知れないままの王太子オイジュスだけなのだった。<BR>
有力な貴族の娘が選ばれ、妃の舘に招き入れられた。<BR>
嘆き疲れたユフェミアを残し、妃の元へと通うことに、心が晴れるはずもなかった。<BR>
心は常に后と王太子のもとにあった。<BR>
それ故に、妃の生んだ子に王太子の地位を授けることだけは、どうしても諾うことができなかった。<BR>
もしも、オイジュスが戻ってきた時に、王太子の地位が既に塞がっていたとすれば、オイジュスは絶望するのではないか。<BR>
そう思えば、宰相がなんと進言して来ようと、首を縦に振ることはできなかった。<BR>
そうして、オイジュスが奪われて三年目のあの日、ユウフェミアもまた、帰らぬものとなったのだ。<BR>
冬だった。<BR>
あたたかな室内から薄着のままに外に出て、ユウフェミアは王の元から去っていった。<BR>
あれ以来、王の心の中には、吹雪の音が鳴り響いている。<BR>
ユウフェミアの命を奪った吹雪の音が、鳴り止まぬままに心を凍らせているのだった。<BR>
<BR>
そうして、尚も十年の歳月が流れた。<BR>
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<BR>
あの日。<BR>
あの春まだ浅い辺境の大地で。<BR>
土にまみれた幼い少年を刺客かと騒ぎ立てた臣下をおさめるためにも、狩猟用の天幕に連れ戻った。<BR>
それだけに過ぎなかった。<BR>
もはや、王太子に対する諦めが彼の心のほとんどを占めていたのだ。<BR>
王太子、オイジュスは死んだのだ。<BR>
しかし、それでも。<BR>
第二王子に王太子の位を授ける踏ん切りだけはつかなかった。<BR>
どれだけ、第二王子に王の資質がほの見えようとも、妃や宰相に詰め寄られようとも、諦める心の反対側に、かすかにまだ王太子に対する希望の欠片が残っていたのだ。<BR>
無事に生きているとするなら、どんな少年に育っているだろう。<BR>
想像の中の王太子が実の父に見捨てられたと知った時に見せるかもしれない絶望の表情が、あの運命の日のユウフェミアの絶望の表情に重なるような気がしてならないのだった。<BR>
テオと名乗った幼い少年の首から下げた革袋を、臣下が取り上げ、逆しまに振った。<BR>
そこから光を弾き転がり出してきたもの。<BR>
それを見た瞬間、王の心臓は、確かに鼓動を止めた。<BR>
他の誰でもない、王自身が手ずから王太子の首にかけた、金の鎖と紅玉の指輪。<BR>
忘れるはずもない。<BR>
指輪は代々の王に伝えられてきた、少し無骨な装飾が施されたものだった。<BR>
テオ……と、名乗った少年から、視線を外すことができなかった。<BR>
その場ですぐに、オイジュスと、名を呼びたかった。<BR>
それをしなかったのは、少しだけ頭を冷やしたかったからだろう。<BR>
心は、その少年がまぎれもなく自分の息子だと、告げていた。<BR>
しかし。<BR>
違っていたとしたら。<BR>
だから、腹心の部下に少年の身元を調べるように命じた。<BR>
結果が伝えられるまでの間、もはや狩りなどつづけていられる気分ではなかった。<BR>
王は、領主の舘に撤収を命じたのだった。<BR>
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まぎれもない我が子だと。<BR>
王の心は、快哉をあげていた。<BR>
何があったのか。<BR>
その場には争いの跡と、流された血、それに、湖に浮かぶ死体が二つあったのだという。<BR>
かかわり合いになった流れの民はすぐに犯人に仕立て上げられかねない。<BR>
そう考えて、彼らは、泣きつづける赤ん坊を拾い上げ、そうして、その場から逃げるように立ち去ったのだ。<BR>
赤ん坊を包んでいた布に、アルシード王家の紋章が刺繍されていることに気づいたのは、既に国境を越えた後のことだったと言う。<BR>
部下が差し出す古びた布を手に取り、王の目からは、涙があふれだした。<BR>
よくぞ。<BR>
よくぞ、その赤子を見捨てずに育ててくれた。<BR>
森の奥、深い湖のほとりで、心細い泣き声を上げていた赤ん坊を拾い上げ育ててくれた流れの民に、王は、心の底からの感謝を伝えたのだった。<BR>
運命の悪戯に翻弄されたあげくようやく戻って来たオイジュスに、王は、心を奪われた。<BR>
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陽によく灼けた健康的な少年だったが、その発育の遅さがどこか既に亡い彼の后を彷彿とさせた。<BR>
テオと長年呼ばれて貧しい生活をしてきた少年が、オイジュスという名と王太子という地位に馴染めずに困惑していることを、感じてはいたがそれは時が解決してくれるだろうと楽観視していた。<BR>
なによりも、王の元へと戻ってきたのだ。<BR>
それで、充分だった。<BR>
十三年間の空白を、どうやって取り戻そう。<BR>
そればかりが、王の頭の中を占めていた。<BR>
15:26 2011/02/13
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