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小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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泣きながら笑い狂った。<BR>
 俺の狂った心に呼応して、世界は少しずつ壊れていった。<BR>
 きっと、俺が死ぬ時には、世界も滅びてしまうのだろう。<BR>
 狂った心の片隅で、冷ややかに理解していた。<BR>  
 滅びればいい。<BR>
 苦しめばいい。<BR>
 叫べ。<BR>
 泣け。<BR>
 死んでしまえ。<BR>
 この世界に俺を引きずり込んだ三本目の触手が何だったのか、俺は理解していた。<BR>
 この世界そのものだったのだと。<BR>
<BR>
 そうやって、どれくらいの時が流れたのだろう。<BR>
 俺は黒々とした雲に覆われた空を見上げていた。<BR>
 心はいまだ癒えることはない。<BR>
 怒りに身を任せるばかりで、自分の身に起きたことなど忘れていた。<BR>
 俺の本性は憤怒なのだと、そう考えることもなく沸き上がる激情のままに世界を震わせていた。<BR>
 そんなある時。<BR>
 不意に誰かに呼ばれたような気がした。<BR>
 鼓膜が震えたわけではない。<BR>
 言ってしまえば、心が震えた。<BR>
 ひとの声だと思えば、ゾッと怖気に震えた。<BR>
 忘れたはずのひとの王の仕打ちが頭をよぎったのだ。<BR>
 ひとは嫌いだ。<BR>
 うるさい! 呼ぶな! と、意識せずに、叫んでいた。<BR>
 それでも、低い声は、繰り返し俺を呼んだ。<BR>
 しつこい!<BR>
 俺の怒号に、風が吹き荒れた。<BR>
 おなじ声が悲鳴を上げる。<BR>
 まだいるのかと、投げた視線の先に、雷が落ちた。<BR>
 ひときわ大きな悲鳴が上がる。<BR>
 為損じたか。<BR>
 ひたと凝視したそこに、俺は薄汚れた男を見つけた。<BR>
 白い麻で作ったようなさっくりとした衣類を纏った男は、腰を抜かしたさまで放心している。<BR>
 ひとなど死ねばいい。<BR>
 俺は、次こそ為損じまいと、指を男に突きつけた。<BR>
 けれど、それは適わずに終わった。<BR>
 腰を抜かしていたとは思えないスピードで起き上がった男は、そのまま俺に這い寄り足に縋りついたのだ。<BR>
「トールさま」と。<BR>
 男が、知るはずのない俺の名を口にしたのだ。<BR>
「誰だ」<BR>
 俺は男を見下ろした。<BR>
 じっとりとした熱が、俺の足首を握る男の掌から伝わってくる。<BR>
 それに全身が逆毛立つ。<BR>
 蹴り放したかったが、なぜか、できなかった。<BR>
 不快を感じながら、どうしても、できなかったのだ。<BR>
「お前は、誰だ」<BR>
 ゆっくりと、俺は、尋ねた。<BR>
「サージと申します」<BR>
 俺の女性器がひとの王によって焼き潰されたあの時、彼は立ち会っていた王たちの中にいた。<BR>
 サージはあの時、未だ歳若い、十代半ばの、発言権のない王だった。<BR>
「三十年の昔、力のないこの身はあなたを救うことができる力を持たず、どれほど謝ろうと今更遅すぎるとわかっております。」<BR>
 そのことばに、あの刹那甲高い制止の声を聞いたような気がしたのを思い出した。<BR>
「それでも、幾度でも、謝罪をいたします。トールさまのお心が凪ぐまで、幾度でも」<BR>
 静かにゆっくりと俺の足から手を放し、地面に額を押し付けた。<BR>
 俺は既視感を覚えた。<BR>
 これとおなじことを何度かくり返していないだろうか。<BR>
 その時々に俺の足下で額づいていたのは、今よりも若くより若いサージではなかったか。<BR>
「三十年…………か」<BR>
 そんなにも、俺は荒れ狂っていたのか。<BR>
 そんなにも長い間。<BR>
 しかし、まだ足りない。<BR>
 総てを奪われた心の傷は、まだ、癒えない。<BR>
 何よりも大切な“あれ”を奪われた俺には、ひとを許すことはできない。<BR>
 そう。<BR>
 引き離されたもとの世界。<BR>
 愛した男。<BR>
 その一族。<BR>
 俺のもうひとつの性。<BR>
 そうしてなによりも、おそらくは愛した男に託されたろう、一族最後の命。<BR>
 これらはなにひとつ戻っては来ないのだ。<BR>
 どれひとつとして、取り戻すことは不可能なのだ。<BR>
 そう思うと、怒りに髪が逆立つ心地がした。<BR>
 風が俺の髪を乱す。<BR>
 俺を中心に渦巻く風の中に、ぱちぱちと小さな放電が起きる。<BR>
 悲鳴があがる。<BR>
「トールさま」<BR>
と。<BR>
「どうか怒りをお収めください」<BR>
と。<BR>
「どうか、これを見てください」<BR>
と、差し出されたサージの掌の上で、俺の周囲の放電の光を弾くそれ。<BR>
 その銀色の勾玉のようなもの。<BR>
 まさか。<BR>
 まさか、あの時の。<BR>
 憎いひとの王が、燻る大地に捨てた一族最後の希望。<BR>
 放電が止まり、風が止まる。<BR>
 俺は、サージの掌から、銀のそれを取り上げた。<BR>
 割れてはいない。<BR>
 皹もないようだった。<BR>
 不安は残る。<BR>
 そんなことでわかるはずがないと思いながらも、俺は、それを耳に当てずにはおられなかった。<BR>
 ああ。<BR>
 トクントクンと、心臓が脈打っている。<BR>
 生きている。<BR>
 涙があふれた。<BR>
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