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小説の後書きとかいい訳とか。あとは雑記。
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<BR>
「大丈夫でしたか?」<BR>
 月のない空の下、遠い常夜灯の明がかすかに少年を照らし出す。<BR>
 大丈夫ではないだろう。<BR>
 乱れた着衣が、物語るのは、少年が受けたであろう暴行の痕跡だ。<BR>
「だ、いじょうぶ。最後まではされなかった…………」<BR>
 震える手が、着衣を整えてゆくのを、エンリケは静かに眺めていた。<BR>
 こうして少年を身近に感じていられるのは、幸運なのか、不運なのか。<BR>
 まざまざと見せつけられた、ボスの少年に対する執着の凄まじさを思い返す。<BR>
 思い出すのは、少年の耳にピアスをつけたあの日の出来事だった。<BR>
 少年から立ちのぼっていた、体臭が甘くよみがえる。<BR>
 ボスに拘束されていた少年の痛々しいまでの震え。<BR>
 ただピアスの穴をあけるだけですよと、慰めてやりたかった。<BR>
 しかし。<BR>
 ボスの目は、よけいなことは口にするなと言っていた。<BR>
 震える少年の薄い耳たぶに手を触れた。<BR>
 そのとき、少年の震えが不思議に治まったのだ。<BR>
 おそらくはその事実が、ボスの逆鱗に触れたのだろう。<BR>
 そうして、薄々は彼の気持ちも、ボスは悟っていたのに違いない。<BR>
 あの手ひどい蹂躙のさなか、どれほど、「やめろ」と叫びだしたかったか。<BR>
 少年が微塵も快感を感じていないことが、見て取れた。<BR>
 喘ぎではなく悲鳴が耳を打った。<BR>
 感極まった顔ではなく、痛みに歪んだ顔が、その苦痛を伝えてくる。<BR>
 痛みを堪えようとソファの皮をかきむしる手の動き。<BR>
 引き連れるような足の震え。<BR>
 苦痛にのけぞる喉。<BR>
 食いしばって血をにじませたくちびる。<BR>
 悲鳴を放つために開かれたくちびる。<BR>
 眉がきつく寄せられ、つむった瞳からは涙が迫りあがりこぼれ落ちていた。<BR>
 どれひとつとっても、少年にとってセックスがただの虐待に過ぎないのだという現実が、苦く理解できた。<BR>
 そうして。<BR>
 同時に。<BR>
 少年のそんな姿に、確かに魅せられている自分がいることをも、痛いくらいに感じていたのだ。<BR>
 まぎれもなく。<BR>
 普通の勤め人とは違い裏社会に属する身には、ボスに逆らうイコール生命を賭けなければならないという現実がある。<BR>
 生命を賭けろというのなら、賭けてやろう。<BR>
 恋した者に命を賭けるなど、ロマンティック過ぎて笑えてくるが、それもまた、ひとつの生き方だろう。<BR>
 しかし、自分が恐れるのは、命を賭けることではない。<BR>
 何よりも恐ろしいのは。<BR>
 他ならぬ自分自身だ。<BR>
 そう。<BR>
 この身には、裏の社会に属して来た者の血が脈々と受け継がれている。<BR>
 ボスの手から少年を逃がせば、間違いなく、次は自分がボスと同じことを少年に強いてしまうだろう。<BR>
 救うつもりで、鎖してしまう。そうして、少年の血と肉と涙とを堪能する自分を容易く想像できた。<BR>
 自分もまた、ボスと同じ穴の狢でしかないのだと。<BR>
 少年を救ってやることすらできない自分自身を痛いほどに、感じたのだ。<BR>
 ボスは絶対である。<BR>
 そうだ。<BR>
 絶対なのだ。<BR>
 この身に流れる血を考えれば、少年に対するこの執着は、彼の絶対の遺伝の賜物となるだろう。<BR>
 趣味嗜好は、親に似るというではないか。<BR>
『お父さまが誰か、けして誰にも言ってはいけませんよ』<BR>
 そう微笑んだのは、最期のことばを告げるはかないひと。<BR>
 褐色の髪をした、エンリケの母親だった。<BR>
 全身に惨い傷を負いながら、それでも生き延びたその力強い生命力は、エンリケが五歳のときについに、失われた。<BR>
 ぼろくずのように森の奥に捨てられた血まみれの母を救ったのは、森の管理をする男だった。<BR>
 おそらくは母を害した者たちは、森の獣にでも始末をさせるつもりだったのだろう。<BR>
 東洋の血を引くのだという男が母を助けなければ、自分は産まれることはなかったろう。<BR>
 記憶を失っていた母は、死の間際にすべてを思い出し、そっと父親のことを教えてくれた。そうして、息を引き取ったのだ。<BR>
 自分はそのまま、森番の男の息子として育った。<BR>
 しかし、実の父親に対する興味は失せなかった。<BR>
 マフィアのボスであると言う、実の父親。<BR>
 どんな男なのか。<BR>
 知りたかった。<BR>
 だから。<BR>
 育ての父の死を契機に、新大陸にわたった。<BR>
 そうして、マフィアの入団試験を受けて今に至るのだ。<BR>
 
 
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